SAPモジュール連携の実務ガイド
MM・PP・FI・SD・QM・COが、どのトランザクションで、どの在庫と勘定を動かすのか
2026年8月
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第1章:なぜ「モジュール連携」から理解すべきか
SAPの導入や運用でつまずく原因の多くは、単体モジュールの設定ミスではなく、モジュール間の受け渡しにあります。購買で入庫した数量が原価に乗らない、出荷したのに売上原価が計上されない、検査中の在庫が引き当てられてしまう。いずれも「どのトランザクションが、どの在庫区分と勘定を動かすか」を関係者が共有できていないことが根本原因です。
本記事では、MM(購買・在庫)を軸に、PP・FI・SD・QM・COとの連携をトランザクションコード・移動タイプ・仕訳のレベルで整理します。業務担当者と会計担当者、そして情シスが同じ地図を持つことが目的です。
第2章:購買から販売までの全体像
物の流れ(MM→PP→SD)に対して、価値の流れ(FI・CO)が必ず並走します。SAPでは物が動いた瞬間に会計が動くのが原則で、この同時性が「リアルタイム経営」の土台になっています。S/4HANAではACDOCA(ユニバーサルジャーナル)にFIとCOが統合され、この連携はさらに密になりました。
第3章:MM↔PP ― 所要量計算と材料払い出し
PPのMRP実行(MD01N/個別品目はMD02)が独立所要量と在庫を突き合わせ、不足分を購買依頼または計画手配として生成します。外部調達品目(調達タイプF)は購買依頼→ME21Nで発注へ、内製品目(調達タイプE)は製造指図へ変換されます。
製造段階では、製造指図の構成品目をMIGO:移動タイプ261でMM在庫から払い出します。ここが「MMの在庫」と「PPの製造指図」が接続する点であり、同時にCOへ実際原価が積み上がる起点でもあります。
| プロセス | Tコード/移動タイプ | 動くもの |
| MRP実行 | MD01N / MD02 | 購買依頼・計画手配の生成 |
| 在庫/所要量照会 | MD04 | 受給バランスの確認 |
| 製造指図への出庫 | MIGO(261) | MM在庫減/指図に実際原価 |
| 製造完了入庫 | MIGO(101) | 製品在庫増/指図の貸方 |
実務のポイント:MRPが購買依頼を作らない場合、まず品目マスタのMRPビュー(MRPタイプ・ロットサイズ・調達タイプ)と、計画納期・安全在庫を確認します。「MMの問題」に見えて、原因はPP側のマスタ設定であることが大半です。
第4章:MM↔FI ― GR/IR仮勘定という「つなぎ目」
MMとFIをつなぐ中核がGR/IR仮勘定(入庫請求仮勘定)です。入庫(GR)と請求書照合(IR)の時間差を吸収するための中間勘定で、両者が一致すれば残高はゼロになります。
| タイミング | Tコード | 仕訳(借方/貸方) |
| 入庫 | MIGO(101) | 在庫 / GR/IR仮勘定 |
| 請求書照合 | MIRO | GR/IR仮勘定+仮払消費税 / 買掛金 |
| 支払 | F110(自動支払) | 買掛金 / 現預金 |
| 差異発生時 | MIRO | 価格差異(PRD)を追加計上 |
勘定の決定は自動転記設定(OBYC)で行われ、在庫勘定はBSX、GR/IRはWRX、価格差異はPRD、消費勘定はGBB(勘定モディファイヤVBR等)が制御します。「なぜこの勘定に飛んだのか」を追う際は、この4つを押さえると原因にたどり着けます。
よくある症状:GR/IR残高が消えない。原因は「入庫のみで請求未達」「請求のみで入庫未達」「数量差異」のいずれか。MB5Sで差異を洗い出し、期末にはF.13による自動消込と、残る差異の要因分析を運用に組み込みます。
第5章:MM↔SD ― 出荷と第三者発注
受注(VA01)に対して出荷伝票(VL01N)を作成し、出庫転記(PGI)を行うと移動タイプ601でMM在庫が減少します。同時にFIへ「売上原価/製品在庫」の仕訳が飛び、請求(VF01)で「売掛金/売上」が計上されます。物の出荷と収益認識が分離している点が重要です。
第三者発注(品目カテゴリTAS)では、自社在庫を経由せずサプライヤーから顧客へ直送します。受注登録と同時にMMの購買依頼が自動生成され、入庫を伴わない(またはstatistical GRの)フローになります。在庫が動かないため、原価計上のタイミングが通常フローと異なる点に注意が必要です。
| プロセス | Tコード/移動タイプ | 会計影響 |
| 受注登録 | VA01 | なし(引当のみ) |
| 出庫転記(PGI) | VL01N(601) | 売上原価 / 製品在庫 |
| 請求 | VF01 | 売掛金 / 売上高+仮受消費税 |
| 入金消込 | F-28 / FEBAN | 現預金 / 売掛金 |
第6章:MM↔QM ― 検査中在庫と使用決定
品目マスタでQM調達検査が有効な場合、入庫した在庫は品質検査中在庫(Quality Inspection Stock)に計上され、MRPの引当対象外になります。検査ロットに対してQA32で使用決定を行うと、合格分は移動タイプ321で利用可能在庫へ移動します。
実務のポイント:「在庫はあるのに引き当てられない」という問い合わせの多くが、この検査中在庫です。MMBEやMB52で在庫区分を確認すれば切り分けられます。使用決定の滞留は、そのまま生産の遅延に直結するため、QA32の未処理件数は日次で監視すべき指標です。
不合格分は返品(122)や特別在庫への転送となり、サプライヤー評価(QM評点)にも反映されます。品質と調達が数値でつながる部分です。
第7章:MM↔CO ― 勘定割当カテゴリで決まる費用の行き先
購買が「在庫」になるか「費用」になるかは、発注明細の勘定割当カテゴリで決まります。ここがMMとCOの接点です。
| カテゴリ | 意味 | 費用の行き先 |
| (空欄) | 在庫購買 | 在庫計上。消費時に費用化 |
| K | 原価センタ購買 | 入庫時に原価センタへ直接計上 |
| P | プロジェクト購買 | WBS要素(PS)へ集約 |
| F | 指図購買 | 内部指図・製造指図へ計上 |
設計上の注意:カテゴリKで購買したものは在庫として見えません。消耗品を在庫管理したい場合はK購買は不適切で、逆に事務用品を在庫購買にすると棚卸負荷が跳ね上がります。「管理したい単位=原価の集計単位」から逆算して決めるのが原則です。
第8章:SD↔FI・PP↔CO ― 損益が確定するまで
製造指図には材料費(261)・労務費・製造間接費が集まり、完成入庫(101)で製品原価が貸方計上されます。指図に残った差額が製造差異で、月次の指図決済(KO88/一括はCO88)によって在庫または売上原価へ配賦されます。
標準原価はCK11Nで計算しCK24でリリース、実際原価との差はマテリアルレジャーで実際原価計算に展開できます。CO-PA(収益性分析)まで連結すると、製品別・顧客別の利益が可視化されます。
| 領域 | Tコード | 目的 |
| 標準原価計算 | CK11N / CK24 | 原価積み上げとリリース |
| 製造指図決済 | KO88 / CO88 | 差異の配賦・原価確定 |
| 差異分析 | KKS1 / COOIS | 指図別の差異把握 |
| 収益性分析 | KE30 | 製品別・顧客別損益 |
第9章:連携でつまずく典型パターンと対策
| 症状 | 主な原因 | 確認先 |
| 在庫はあるのに引当されない | 品質検査中在庫/保留在庫 | MMBE・MB52で在庫区分 |
| GR/IR残高が消えない | 入庫と請求の数量・金額差異 | MB5S/F.13で消込 |
| 費用が原価センタに乗らない | 勘定割当カテゴリの設定誤り | 発注明細のカテゴリ(K/P/F) |
| 想定外の勘定に転記される | 自動転記設定の不備 | OBYC(BSX/WRX/PRD/GBB) |
| MRPが購買依頼を作らない | MRPタイプ・調達タイプ・ロットサイズ | 品目マスタMRPビュー |
| 売上原価が計上されない | PGI未実施/出荷伝票の未完了 | VL06O・伝票フロー |
連携トラブルの切り分けは「物(在庫区分)→ 伝票(伝票フロー)→ 勘定(自動転記)」の順に見るのが最短です。会計側の異常に見えても、起点は物流側の伝票であることがほとんどです。
第10章:トランザクションコード早見表
| モジュール | 主要Tコード |
| MM | ME51N(購買依頼)/ME21N(発注)/MIGO(入出庫)/MIRO(請求照合)/MMBE・MB52(在庫照会)/MB5S(GR-IR差異) |
| PP | MD01N・MD02(MRP)/MD04(所要量照会)/CO01(製造指図)/CO11N(実績確認)/COOIS(指図情報) |
| SD | VA01(受注)/VL01N(出荷)/VF01(請求)/VL06O(出荷モニタ) |
| QM | QA32(使用決定)/QA33(検査ロット照会) |
| FI | F110(自動支払)/F-28(入金消込)/FB03(会計伝票照会)/F.13(自動消込) |
| CO | CK11N・CK24(標準原価)/KO88・CO88(決済)/KKS1(差異)/KE30(CO-PA) |
各モジュールの詳細は個別記事で解説しています。まずは本記事の全体像を押さえたうえで、担当領域を深掘りしてください。