業務パターンとSAP実現方式ガイド
ものづくりの現場から理解する:製造・販売・調達パターンの実例とSAP設計
2026年6月
はじめに
本資料は「ものづくりの現場でどんな業務が発生するか」を具体的な製品・業種の事例を通じて解説し、それがSAP上でどのように実現されるかをつなげて理解するためのガイドである。
各業務パターンには「実例」ボックスを設け、具体的なメーカー業種・製品・業務シナリオで解説する。業務フローは「ステップ表」で示し、処理ごとの操作(T-Code)を一覧できるようにした。
第一章 生産形態の基礎——「いつ作るか」で業務が変わる
生産形態とは何か
生産形態(Production Strategy)は「受注と生産のタイミングの関係」を示す概念である。「先に作るか、注文が来てから作るか」という問いへの答えがそのまま生産形態になる。SAPはこれを品目マスタの計画戦略で制御しており、生産形態が変わるとMRPの動き方・在庫の持ち方・受注との紐付き方が根本から変わる。
生産形態 | 別名 | 在庫の有無 | 納期の特徴 | 典型業種 |
MTS | 見込生産 | あり(先行製造) | 最短(在庫から即出荷) | 消費財・汎用部品・食品 |
ATO | 受注組立 | 部品は在庫あり | 短〜中(最終組立のみ) | PC・自動車(グレード選択) |
CTO | 受注構成 | 部品モジュールは在庫 | 中(組み合わせ多数) | 産業機器・医療機器 |
MTO | 受注生産 | なし(受注後製造) | 中〜長(製造リードタイム) | 産業機械・仕様品 |
ETO | 個別設計受注 | なし(設計から開始) | 長(設計+製造) | 大型プラント・造船 |
MTS:Make-to-Stock(見込生産)
「注文が来る前に作って棚に置く」スタイル。需要が安定していて品種が少ない製品に向く。在庫リスクは企業が負う。
▶ 実例:飲料メーカーの缶コーヒー生産(月産3万本)
◆ 製品:500ml缶コーヒー(ブラック/微糖/カフェラテ 3品種)
◆ 「来月は夏で微糖が3万本売れる見込み」→先行製造→倉庫保管
◆ コンビニチェーンから発注が来たら、在庫確認→即日出荷
◆ SAP業務フロー
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 翌月3万本の計画数量を登録 | MD61 |
| ② | MRP実行→製造指図・購買依頼を自動生成 | MD01N |
| ③ | 受注登録・ATP確認(在庫3万本 ≥ 受注5千本→確保OK) | VA01 |
| ④ | 出荷処理 | VL01N |
| ⑤ | 請求書発行 | VF01 |
◆ SAP設定:品目マスタ 計画戦略「10(見込生産)」/ MRPタイプ「PD」
◆ ポイント:需要予測精度が在庫水準の肝。売れ残り廃棄損はメーカー側リスク。
ATO:Assemble-to-Order(受注組立)
「部品・半製品は先に作っておくが、最終製品の組み立ては注文が来てから行う」スタイル。完成品在庫は持たず、部品在庫で多様な組み合わせに対応する。
▶ 実例:PCメーカーの受注組立(法人向けノートPC)
◆ 製品:法人向けノートPC(CPU/メモリ/SSD容量を顧客が選択)
◆ 共通部品(マザーボード・液晶・筐体)→ 見込みで先行製造・在庫保有
◆ CPU(i5/i7)・メモリ(16/32GB)・SSD(256/512GB)→ 見込在庫保有
◆ 完成品パターンは2×2×2=8通り → 完成品在庫は持たない
◆ 顧客が「Core i7 / 32GB / 512GB × 100台」を発注した場合のフロー
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(構成タブでCPU=i7、メモリ=32GB、SSD=512GBを選択) | VA01 |
| ② | Variant ConfigurationでBOMが自動展開→部品引当 | 自動 |
| ③ | 不足部品の追加発注(MRP展開) | MD01N |
| ④ | 組み立て製造指図発行 | CO01 |
| ⑤ | 100台組立実績入力 | CO11N |
| ⑥ | 完成品入庫 | MB31 |
| ⑦ | 出荷 | VL01N |
| ⑧ | 請求書発行 | VF01 |
◆ SAP設定:Variant Configuration(CT04/CL02/CU41)+ 中間品 計画戦略70
CTO:Configure-to-Order(受注構成)
ATOの発展版。モジュールの組み合わせが膨大(数百〜数万通り)で、完成品在庫を持つことが不可能なレベルの多様性を持つ形態。
▶ 実例:産業用インバータメーカーの受注対応
◆ 製品:汎用インバータ(工場モーター制御装置)
◆ 選択軸:出力容量15段階 × 電圧3種 × 通信規格4種 × 筐体2種 = 360通り
◆ 完成品在庫は不可能 → 受注確定後にBOMを動的に確定して製造
◆ 顧客が「3.7kW / 三相200V / EtherNet/IP / 屋外防水」を10台発注した場合
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(構成タブで各特性値を選択) | VA01 |
| ② | Variant ConfigurationエンジンがBOM・ルーティングを自動決定 | 自動 |
| ③ | MRP展開→固有部品(3.7kWトランス・EtherNet/IPボード等)を発注 | MD01N |
| ④ | 製造指図発行 | CO01 |
| ⑤ | 組立・試験 | CO11N |
| ⑥ | 出荷・請求 | VL01N/VF01 |
◆ SAP設定:CT04(特性定義)→ CL02(クラス)→ CU41(構成プロファイル)
MTO:Make-to-Order(受注生産)
「注文が来てから製造を開始する」形態。原価は受注別に集計し、受注ごとの採算が把握できる。
▶ 実例:プレス金型メーカーの受注生産(自動車用ドアパネル金型)
◆ 製品:自動車ボディパネル用プレス金型(1セット 約2億円)
◆ 在庫はゼロ。受注後に材料手配→外注荒削り→社内仕上げ→試打→納品
◆ 受注〜納品フロー
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(顧客=自動車メーカー / 金額=200,000千円) | VA01 |
| ② | MRP展開→製造指図・購買依頼を自動生成 | MD01N |
| ③ | 特殊鋼材(SKD11)を鋼材商社に発注(勘定割当:受注E) | ME21N |
| ④ | 荒削り工程を外注先に支給・加工依頼 | ME21N(外注) |
| ⑤ | 外注品入荷 | MIGO |
| ⑥ | 社内精密研磨・放電加工・組立調整(実績入力) | CO11N |
| ⑦ | 試打検査→OK確認 | QA11/QA32 |
| ⑧ | 完成品入庫(受注特別ストック) | MB31 |
| ⑨ | 出荷 | VL01N |
| ⑩ | 請求書発行(200,000千円) | VF01 |
◆ SAP設定:計画戦略「20(受注生産)」/ 受注特別ストック(E在庫)
◆ 受注別採算:KKA2で「見積原価 vs 実績原価」を金型ごとに分析可能
ETO:Engineer-to-Order(個別設計受注)
「設計図から作る」形態。受注ごとに設計→調達→製造の全工程を行う。SAP PSのWBS管理が中心。
▶ 実例:化学プラント建設会社のEPC受注(工期24ヶ月 / 受注金額30億円)
◆ 受注内容:エタノール製造プラント一式(基本設計〜試運転まで)
◆ 月次工事進行基準を適用しないと、決算月に30億円が一括計上され財務諸表が歪む
◆ 設計フェーズ(受注後1〜6ヶ月目)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 顧客仕様書受領→プロセスフロー・機器リスト作成 | — |
| ② | WBS作成(設計/調達/建設/試運転の4フェーズ) | CJ01 |
| ③ | 予算登録 | CJ30 |
| ④ | 受注伝票にWBS要素を紐付け | VA01 |
◆ 調達〜建設フェーズ(3〜20ヶ月目)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 特注タンク・ポンプを専門メーカーに発注(Q在庫管理) | ME21N |
| ② | 資材入荷→プロジェクト在庫(Q在庫)に計上 | MIGO(101Q) |
| ③ | 建設作業(外注)の工数をWBSに集計 | CN25 |
| ④ | 月次:WBS決算(仕掛を工事原価に振替) | CJ88 |
| ⑤ | 月次:工事進行基準による収益認識(30億×進捗率%) | VF44 |
◆ 引渡しフェーズ(22〜24ヶ月目)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 試運転完了→顧客検収 | — |
| ② | 最終請求書(残金)発行 | VF01 |
| ③ | WBS最終決算(仕掛残高ゼロ化) | CJ88 |
◆ SAP設定:PS(WBS)+ SD受注連携 + DIP(DP90)進捗請求 + VF44収益認識
第二章 販売業務パターン(SDシナリオ)
2-1 受注・手配形態パターン
SD-101:見込生産品の在庫販売
最も基本的なパターン。在庫があれば受注当日に出荷確約できる。需要が安定した量産品に向く。
▶ 実例:工業用ネジメーカー(M6×20mm 六角ボルト 月販10万本)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(10,000本) | VA01 |
| ② | ATP確認(在庫50,000本 → 引当OK) | 自動 |
| ③ | 出荷伝票作成・ピッキング・実際出庫 | VL01N |
| ④ | 請求書発行 | VF01 |
◆ SAP設定:品目カテゴリ TAN / 計画戦略10 / スケジュール行カテゴリ CP
受注後に製造を開始するため在庫ゼロだが、納期は製造リードタイムが加算される。
▶ 実例:特殊ベアリングメーカー(顧客指定内径・精度等級)
◆ 内径φ47.00mm(標準はφ47mm)の特殊品 → 在庫なし、受注してから研磨加工
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(特殊品 計画戦略20) | VA01 |
| ② | MRP実行→製造指図を自動生成 | MD01N |
| ③ | 加工(旋削・研磨・熱処理)実績入力 | CO11N |
| ④ | 品質検査 | QA11/QA32 |
| ⑤ | 完成品入庫(受注特別ストックへ) | MB31 |
| ⑥ | 出荷(受注特別ストックから) | VL01N |
| ⑦ | 請求書発行 | VF01 |
◆ ポイント:受注特別ストックは他の受注に流用不可。MB53で受注番号別に在庫確認可。
SD-103:分納契約(内示・確定)
自動車・電機業界でよく見られる。顧客が「3ヶ月分の概算数量(内示)」を先に通知し、確定発注は直前に来る形態。
▶ 実例:自動車用ゴムホースメーカー(Tier2→Tier1)
◆ 内示:7月分12,000本 / 8月分11,500本 / 9月分12,200本(毎月Tier1から通知)
◆ 確定:6月25日に「7月第1週分3,000本を7月2日に納品」の確定指示が来る
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 内示数量を計画独立所要量として登録 | MD61 |
| ② | MRP実行→材料を先行手配(内示ベース) | MD01N |
| ③ | 確定コールオフ受信(EDI/IDoc自動取込) | IDoc/VA01 |
| ④ | 出荷ロット確定→ピッキング | VL01N |
| ⑤ | 納品・請求 | VF01 |
◆ SAP設定:数量契約(VA41)+ コールオフ(VA01から参照)
SD-205:仕入先直送(第三者発注)
自社在庫を持たず、顧客の注文を受けたら仕入先に直接顧客への出荷を指示する。商社・トレーディング会社に多い。
▶ 実例:産業機器専門商社の直送取引(海外ポンプメーカー→国内工場)
◆ 自社は在庫ゼロ。受注を受けたら海外ポンプメーカーに直接顧客工場への出荷を指示。
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(品目カテゴリ TAS) | VA01 |
| ② | 受注から購買発注を自動生成(仕入先=ポンプメーカー、届先=顧客工場) | ME21N(自動) |
| ③ | 仕入先が顧客工場へ直接出荷(統計的入荷処理) | MIGO(統計) |
| ④ | 売上請求書発行 | VF01 |
| ⑤ | 仕入請求書照合 | MIRO |
◆ SAP設定:品目カテゴリ「TAS(第三者発注)」/ スケジュール行カテゴリ「CS」
2-2 価格・契約パターン
SD-302:リベート処理
▶ 実例:電子部品メーカーのリベート契約(年間1億円以上→翌年3月に2%還元)
◆ 課題:Excel管理では「今期累計リベート負債がいくらか」が月次では不透明
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | リベート協定登録(レート2%・対象期間・対象顧客) | VBO1 |
| ② | 各請求書発行時に2%分がリベート未払負債として自動積み上げ | VF01(自動) |
| ③ | 期末:リベート精算(Credit Memo発行) | VB(D) |
| ④ | 顧客への還元処理 | — |
◆ メリット:リベート未払残高がFI上でリアルタイムに把握できる(Excel管理不要)
2-3 特殊取引パターン
SD-601:有償支給販売
自社の材料を外注先に「形式上販売」し、加工完成品を外注先から「購買」するパターン。材料の所有権は自社に残る。
▶ 実例:板金プレスメーカーの有償支給(SPCC鋼板→溶接工場→製品買い戻し)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 有償支給受注登録(材料を外注先倉庫へ「出荷」) | VA01 |
| ② | 材料を外注先倉庫へ出荷(形式上の売上 / 所有権は自社のまま) | VL01N |
| ③ | 外注先が溶接・塗装を実施 | — |
| ④ | 外注発注(加工費の購買) | ME21N |
| ⑤ | 加工品入荷 | MIGO |
| ⑥ | 加工費の請求書照合 | MIRO |
| ⑦ | 材料代と加工費を差引精算(相殺支払) | F110 |
◆ ポイント:材料は外注先に渡しても所有権は自社のまま(支給品在庫として追跡)
▶ 実例:プラスチック容器メーカーの量産ライン(PETボトルキャップ 月産500万個)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 翌月生産計画500万個を登録 | MD61 |
| ② | MRP実行(原料購買依頼・製造指図を自動生成) | MD01N |
| ③ | 購買依頼を購買発注に変換(または自動発注) | ME21N/ME59N |
| ④ | 製造実績入力(成形数量・不良数) | CO11N |
| ⑤ | 完成品入庫(自社倉庫へ) | MB31(101) |
◆ SAP設定:計画戦略10 / MRPタイプ PD / ロットサイズ HB(週次まとめ)
PP-102:受注生産(MTO)
▶ 実例:特注板金筐体メーカー(制御盤ケース 顧客指定サイズ・塗色)
◆ 製品:制御盤用鉄製筐体(600H×400W×200D mm、塗色:RAL7035)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 受注登録(計画戦略20)→納期日程自動計算(板金5日+塗装3日=8日) | VA01 |
| ② | MRP実行→製造指図自動生成 | MD01N |
| ③ | BOM展開(SPCC鉄板・塗料・取付金具)→購買依頼生成 | 自動 |
| ④ | 板金加工実績入力 | CO11N(工程10) |
| ⑤ | 塗装実績入力 | CO11N(工程20) |
| ⑥ | 完成品入庫(受注特別ストック 移動タイプ101E) | MB31 |
| ⑦ | 出荷(受注特別ストックから) | VL01N |
| ⑧ | 請求書発行 | VF01 |
◆ MB53で「受注番号1234」に紐付いた在庫を確認可。他受注への流用不可。
3-2 製造実施パターン
PP-201:製造指図の発行と管理
▶ 実例:プレス部品加工会社の工程管理(自動車用ブラケット 4工程)
◆ ルーティング構成:プレス→バリ取り→熱処理(外注)→外観検査
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 製造指図作成(BOM展開・ルーティング紐付き) | CO01 |
| ② | 製造指図リリース(材料引当・能力確認) | CO02 |
| ③ | 工程10 プレス加工実績入力(0.5分/個) | CO11N |
| ④ | 工程20 バリ取り実績入力(1.2分/個) | CO11N |
| ⑤ | 工程30 熱処理を外注先へ発注・支給 | ME21N/MIGO(541) |
| ⑥ | 外注品入荷(熱処理済) | MIGO(入荷) |
| ⑦ | 工程40 外観検査実績入力(0.3分/個) | CO11N |
| ⑧ | 完成品入庫 | MB31 |
◆ 能力計画:CM01で各作業区の負荷(%)を確認→過負荷なら外注・残業で対処
PP-203:リワーク(不良品の再加工)
▶ 実例:電子基板実装工場のハンダ不良対応(200枚中15枚 不良率7.5%)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 不良品をQA在庫に移動 | MIGO(344) |
| ② | 修正可否判定(「修正可能」→ リワーク実施) | QA11 |
| ③ | リワーク専用の製造指図を起票 | CO01 |
| ④ | ハンダ修正作業実績入力 | CO11N |
| ⑤ | 合格品として通常在庫に戻す | MB31 |
| ⑥ | (廃棄の場合)廃棄処理→廃棄損をFIに自動転記 | MIGO(551) |
◆ コスト把握:元の製造指図コスト+リワーク指図コスト = この基板の実際原価
▶ 実例:切削加工会社の表面処理外注(アルミ精密部品→アルマイト処理)
◆ アルマイト処理は自社にない設備のため、A表面処理(株)に委託
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 製造指図作成(ルーティング工程30を「外注」に設定) | CO01 |
| ② | 製造指図リリース→外注発注が自動生成 | CO02→ME21N(自動) |
| ③ | 未加工品を外注先倉庫へ出荷(所有権は自社のまま) | MIGO(541) |
| ④ | 外注先でアルマイト処理完了→入荷 | MIGO(101) |
| ⑤ | 外注加工費の三点照合(発注・入荷・請求書) | MIRO |
| ⑥ | 社内組立工程→完成品入庫 | CO11N/MB31 |
◆ ポイント:541出荷後も在庫所有権は自社のまま。外注先で紛失→在庫差異は自社に計上。
第四章 購買・在庫管理パターン(MMシナリオ)
4-1 発注手配パターン
MM-101:MRP自動発注
▶ 実例:食品包装機械メーカーの部品調達(ステンレスボルト M8×25 年間5万本使用)
◆ MRPパラメーター:安全在庫2,000本 / リードタイム7日 / 固定ロット1,000本単位
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | MRP実行(月曜朝7:00に自動スケジュール) | MD01N(自動) |
| ② | 「在庫1,500本 / 安全在庫2,000本 → 不足→1,000本発注」を自動計算 | 自動 |
| ③ | 購買依頼(PR)を自動生成 | 自動 |
| ④ | 購買担当が確認・承認 | ME57 |
| ⑤ | 購買発注(または自動変換) | ME21N/ME59N |
| ⑥ | 入荷・請求書照合 | MIGO/MIRO |
◆ メリット:1,000品番のネジ類を個別管理不要。「買い忘れ」「過剰在庫」が構造的に減少。
MM-502:自動請求書照合(ERS)
▶ 実例:自動車部品メーカーのERS運用(月数百枚の請求書照合を自動化)
◆ 課題:従来は三点照合(発注・入荷・請求書)の手作業が月30時間超
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 入荷処理完了 | MIGO |
| ② | ERS実行:入荷量×発注単価で支払金額を自動確定 | MRRL |
| ③ | 自動支払(確定金額を指定日に自動振込) | F110 |
◆ 仕入先メリット:請求書作成・送付の工数ゼロ。支払が確実。
◆ 設定条件:購買情報レコード(ME11)でERSフラグ有効化 + 仕入先マスタにERSフラグ
4-2 在庫管理パターン
MM-603:ロット管理
▶ 実例:医薬品原料メーカーのロット追跡(原薬/API、GMP対応)
◆ なぜ必要か:「ロットXYZ-06のAPIを使った錠剤に品質問題→回収先を数時間以内に特定が必要」
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 入荷時にロット番号・製造日・有効期限を入力 | MIGO(入荷) |
| ② | 材料払出時にどのロットを使ったかを記録 | CO11N(ロット指定) |
| ③ | 問題ロット発見時:ロット使用状況を即座に照会 | MB56 |
| ④ | 使用先(製造指図番号→出荷先)を特定→回収対象リスト作成 | MB51/MB56 |
◆ 効果:XYZ-06を使った全製品の出荷先を数時間以内に特定可能(手作業では数日かかる)
MM-701:委託在庫管理(Vendor Consignment)
▶ 実例:組立メーカーの委託在庫活用(シリコーングリス:仕入先が自社倉庫に持ち込む)
◆ 仕組み:仕入先が100本搬入→使った分だけ支払い(搬入時点では支払義務なし)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 仕入先が100本を自社倉庫へ搬入→委託在庫として登録 | MIGO(101K) |
| ② | 製造ライン払出(払出時点で初めて支払義務が発生) | MIGO(201K) |
| ③ | 月次:払出数量×単価で精算 | MRKO |
| ④ | 請求書照合・支払 | MIRO/F110 |
◆ 効果:100本を在庫しておきながら使った分だけ払う。キャッシュアウトを最小化。
第五章 品質管理パターン(QMシナリオ)
5-1 受入検査(QM-101)
▶ 実例:プラスチック射出成形工場の原料検査(ABS樹脂ペレット 流動性・水分含有率検査)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 入荷→検査ロット自動生成・QA在庫へ自動移動 | MIGO(101) |
| ② | 検査実績入力(MFR値・水分率を測定値として入力) | QA11 |
| ③ | 合格判定→通常在庫へリリース | QA32→MIGO(343自動) |
| ④ | (不合格の場合)返品 | MIGO(122) |
◆ 合格判定前は製造ラインへの払出が不可(システム制御)
▶ 実例:精密旋盤部品の中間検査(ステンレス精密シャフト φ20h6 公差±0.008mm)
◆ 工程:荒削り→【中間検査】→仕上げ→研削→【最終検査】→入庫
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 工程10(荒削り)実績入力→検査ロット自動発生 | CO11N |
| ② | 外径寸法測定値を入力(φ20.005mm → 許容範囲内) | QA11 |
| ③ | 合格判定→工程20(仕上げ)の実施がロック解除 | QA32 |
| ④ | (不合格の場合)工程20に進めない→リワーク or 廃棄判断 | — |
5-3 出荷前検査(QM-202)
▶ 実例:自動車部品メーカーの出荷前全数検査(ブレーキキャリパー 安全部品)
| Step | 処理内容 | T-Code |
| ① | 製造完了品を検査用QA在庫へ移動 | MB31→QA在庫 |
| ② | 外観検査(キズ・バリ・欠け)+寸法測定20点 | QA11 |
| ③ | 合格判定→出荷可能状態へ | QA32 |
| ④ | (不合格の場合)VL01N実行不可のまま(システム制御) | — |
| ⑤ | 出荷 | VL01N |
◆ ポイント:合格判定がないと出荷伝票が作れない仕組みで「検査飛ばし出荷」を防止
各パターンを組み合わせた「実際のものづくり企業の業務フロー全体像」を4つのシナリオで示す。
企業イメージ:食器用洗剤メーカー(年産2,000万本)
フェーズ | 業務内容 | 業務パターン | 主なT-Code |
生産計画 | 翌月分500万本の生産計画登録 | PP-101 / MTS | MD61/MD01N |
原材料調達 | 界面活性剤・容器・ラベルをMRP自動発注 | MM-101 | ME59N/ME21N |
製造 | 充填ライン・包装ライン稼働 | PP-201 | CO11N/MB31 |
品質 | 充填量・キャップトルク検査 | QM-201 | QA11/QA32 |
受注 | スーパーチェーンから月次発注(EDI) | SD-101/分納 | VA01(自動) |
出荷 | センター一括出荷 | SD-401 | VL01N |
請求 | 月末締め一括請求 | SD-502 | VF04/VF01 |
支払 | 仕入先への自動振込 | FI自動支払 | F110 |
ポイント:EDIで受注自動取込、MRPで自動発注、VF04で一括請求、F110で自動支払まで人手介入を最小化できる「SAPが最も得意とする反復型取引の自動化」の典型。
シナリオB:仕様指定品を受注してから海外輸出する
企業イメージ:精密加工部品メーカー(受注生産専業)
フェーズ | 業務内容 | 業務パターン | 主なT-Code |
受注 | 独自仕様の精密部品を欧州客先から受注(EUR建) | SD-102/203 | VA01(外貨) |
前払金 | 着手金50%の前払い受領 | SD-503 | F-29(前払消込) |
MRP | 受注から製造指図・購買依頼を自動展開 | PP-102/MTO | MD01N/CO01 |
材料調達 | 特殊合金(輸入材)の発注 | MM-202輸入 | ME21N |
外注 | 熱処理工程を外注加工 | PP-302 | ME21N(外注) |
製造 | CNC加工→外注熱処理→社内仕上→検査 | PP-201 | CO11N/QA11 |
出荷 | 輸出申告・貨物出荷 | SD-203 | VL01N |
請求 | 残金50%請求(EUR建) | SD-101 | VF01(外貨) |
入金 | EUR入金→円換算→為替差損益自動計上 | FI | F-28 |
ポイント:受注ごとに品番・仕様が異なる。各受注の採算(見積原価vs実際原価)をCO-PCで管理することで、どの案件が儲かっているかが可視化される。
シナリオC:内示・確定で自動車部品を分納供給する
企業イメージ:自動車Tier2サプライヤー(スタンピング・溶接部品)
フェーズ | 業務内容 | 業務パターン | 主なT-Code |
需要取込 | Tier1からEDI(内示)を受信→計画変換 | SD-103/EDI | IDoc→VA41 |
生産計画 | 内示ベースでATO半製品を先行製造 | PP-101(半製品) | MD01N |
確定受注 | 週次の確定コールオフを受信 | SD-103(確定) | VA01(コールオフ) |
材料調達 | 鋼板・溶接材をMRP自動発注(委託在庫活用) | MM-101/701 | ME21N/MRKO |
製造 | プレス→バリ取り→溶接→塗装(ロット管理) | PP-201/603 | CO11N(工程別) |
品質 | 受入→工程内→全数出荷前検査 | QM-101/201/202 | QA11/QA32 |
出荷 | 納入指示書(かんばん)に従い混載出荷 | SD-401 | VL01N |
精算 | 月次ERS自動精算(仕入側) | MM-502 | MRRL |
ポイント:内示と確定のギャップ管理が実務上の重要課題。計画独立所要量の調整係数(例:内示×0.8)と安全在庫の精緻な設定が必要。
シナリオD:大型プラントを個別受注設計で建設する(ETO)
企業イメージ:プラントエンジニアリング会社
フェーズ | 業務内容 | 業務パターン | 主なT-Code |
受注 | 顧客仕様書に基づきプラント建設を受注(30億円) | ETO/SD+PS | VA01→CJ01 |
立上げ | WBS作成・予算登録(設計/調達/建設/試運転) | PS WBS | CJ01/CJ30 |
基本設計 | エンジニア工数をCATSで入力→WBSに転記 | PS/CO | CATS/CN25 |
機器調達 | 特注タンク・ポンプ等を発注(Q在庫管理) | MM+PS連携 | ME21N(Q在庫) |
建設工事 | 外注工事費をWBSへ転記・進捗管理 | PS/外注 | CN25/CJ20N |
月次決算 | 工事進行基準で収益認識・CJ88でWBS決算 | PS/SD収益認識 | VF44/CJ88 |
中間請求 | マイルストーン達成のたびに請求書発行 | SDマイルストーン | VF01 |
最終引渡し | 顧客検収→最終請求(残金) | SD-101 | VF01(最終) |
完了 | WBS最終決算・設備を固定資産計上 | PS/AA | CJ88/AIBU |
ポイント:工事進行基準(POC法)の月次収益認識が財務的な最重要業務。月次でVF44とCJ88を実行しないと期末に30億円が一括計上されてしまう。
第七章 業務パターン別「SAPの得意と苦手」
SAPが圧倒的に強い領域
大量反復取引の自動化:毎日同じパターンの受注・発注・請求が1,000件規模で流れる量産メーカーでは、MRP自動発注・VF04一括請求・F110自動支払の組み合わせにより人手介入をほぼゼロにできる。
三点照合(P2Pの自動精度管理):発注(ME21N)・入荷(MIGO)・請求書(MIRO)の三点照合は金額・数量の差異を自動検知して支払を保留する。月数百件の請求書照合を数人で管理できる。
リアルタイム在庫可視化:MIGO入力の瞬間に全社の在庫データベースが更新される。「A工場に何がいくつあるか」「どの受注に引き当たっているか」が即座に確認できる。
財務仕訳の完全自動化:入荷・出荷・請求書・支払のすべてのイベントに仕訳が自動生成される。手書き・Excel転記ゼロで月次決算の工数が劇的に短縮される。
SAPが苦手な領域(対策を要する)
頻繁な設計変更(ETO・MTO):受注のたびにBOM・ルーティングを新規作成・変更する必要があり、エンジニアリングチェンジ管理(ECM)の設計を誤ると混乱する。SAP DMS・PLMとの統合設計が必要。
非定型な値引き・交渉:属人的な値引きはSAPの条件管理では制御しにくい。承認ワークフロー付きの価格変更管理(VK11+Fiori承認)で制御する設計が必要。
需要予測の不安定なMTS:精度の低い販売予測でMRPを回すと過剰在庫と在庫切れが同時発生する。安全在庫・バッファの精緻な設定が必要。
マスタデータの不整備:BOMが古い・ルーティングが未登録・品目マスタのMRPタイプが誤り——こうした不備があると自動化の恩恵が得られない。「マスタデータ品質はSAP導入の最重要前提条件」である。
以上